住宅地と隣接した駐車場では、「前向き駐車でお願いします」と掲示板に書かれ、後ろ向きで駐車しないように警告されているところが多くあります。これは、駐車した車の排気ガスによる住民への被害を防ぐための処置ですが、完全に守られていないのが現状です。

守られない原因として、

  • 前向き駐車はバック駐車より苦労する。
  • 前向き駐車は運転が未熟に見られる。
  • バック駐車が習慣になってしまっている。

のようなことが考えられます。原因の中の、「前向き駐車はバック駐車より苦労する」というのは本当でしょうか?そのように思い込んでいるだけではないのでしょうか?事実なのか先入観だけなのか?

一般的に、前向き駐車は入る時は簡単でも、出る時が難しいと思われています。前向き駐車の利点は入る時の簡単さで、欠点は出る時の難しさと考えられます。本当にそうなのか、確かめてみたいと思います。
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そもそも駐車スペースに入るとはどういうことか?

駐車場の1台分の駐車スペースは、おおよそ幅2.5m、奥行5m~6mが標準です。駐車スペースに入るということは、幅2.5mの入り口を通過する時に、車の向きが0度、つまり奥行きの枠の白線と平行になっているということです。
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<画像:駐車スペースの入り口のラインを0度で通過すること>

「入り口を通過する時点で車体が0度になっていること」が、駐車スペースに車を入れるということになります。

駐車スペースの入り口のラインを0度で通過する難易度で、簡単な駐車か難しい駐車か判断できます。駐車スペースの入り口のラインを、入る時と出る時をバック駐車と比較をすれば、前向き駐車の利点と欠点が見えてくるはずです。

入り口のラインを0度で通過する比較

最小回転半径の中心は後輪の車軸の延長線上

前進も後退も同じですが、どんなに小回りで回ろうとしても、最小回転半径より小さくは曲がれません。

最小回転半径とは、ハンドルを一杯に切った状態で回転した時、車の外側の前輪の中心が描いた円の半径のことです。円の中心点は、車の後輪の車軸の延長線上にあります。
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<画像:最小回転半径とは>

前向き駐車とバック駐車を比較する場合にポイントになるのが、最小回転半径の中心点が後輪の車軸の延長線上にあるという点です。

車体が真っ直ぐ=垂直(0度)になるのは、車の後輪の車軸が水平(90度)になる位置ということです。円の中心が前輪の車軸でも車体の中心ではなくて、車の後輪の車軸の延長線上にあるために、真っ直ぐになる位置の基準が後輪になるのです。

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<画像:最小回転半径で回転した車の様子>

前向き駐車は後輪が入り口を通過するのが遅れる

駐車スペースの入り口のラインを前向きに通過する場合と、バックで通過する場合を比較すると、前向きの方がバックに比べて、前輪と後輪の距離=ホイールベースの分だけ車体が0度(垂直)になるのが遅れます。

バック駐車では後輪から入り口のラインを通過します。前向き駐車では前輪から入り口のラインを通過します。入口のラインを先に通過するのはバック駐車の方です。

前向き駐車は後輪が入り口のラインを通過するまで、車体が垂直(0度)にはなりません。0度になっていないまま入り口のラインを通過するということは、隣の車と接触してしまいます。前向き駐車で入り口のラインを通過するためには、ホイールベース分離れた位置から回転しなくてはなりません。

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<画像:前向き駐車はホイールベース分離れて回転する必要>

逆に言えば、バック駐車は前向き駐車に比べて、ホイールベースの分だけ、入り口のラインの近くから回転すれば良いことになります。

前向き駐車の利点と欠点

前向き駐車の利点

  • 駐車スペースに入る時は前進なので安全確認とハンドル操作がしやすい。
  • 駐車スペースに入る時間と手間が少なくて済む。
  • 駐車スペースに入る際の接触事故の可能性は低くなる。
  • 隣接住民への排気ガスの迷惑を防げる。

バック駐車が苦手な人の場合、バック駐車のために起こすであろう事故は少なくなります。

前向き駐車の欠点

前向き駐車は、前輪よりも後から後輪が駐車スペースの入り口のラインを通過するために、入り口のラインで車体が0度になるのが遅れます。車体が斜めに傾いた状態で入り口のラインを通過すれば、隣の車と接触してしまいます。

入り口のラインを通過する時に0度になっておくためには、より遠くから回転を始める必要があります。その余分に必要な距離はホイールベースの距離になります。

  • 駐車スペースに入るための回転に要する距離が大きくなる。
  • バック駐車よりも広い通路が必要。
  • 出ていく際に隣の車や後方を通過する車との接触事故の可能性は高くなる。

接触事故の可能性は、前向き駐車とバック駐車ではどちらも同等と考えられます。ただ、前向き駐車の場合、入り口までの回転に要する距離が大きくなるので、出る時も同じ距離を使って出なければなりません。

通路が広くない駐車場では、前向き駐車で外側一杯から回転して入った場合、出る時も外側一杯に回転しながら出なければなりません。バックで安全確認しながら、外側ギリギリで回転するのは難しい操作になります。

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<画像:前向き駐車の出る時は入る時と同じ軌道が必要>

前向き駐車で入れたのなら、同じ軌道をバックすれば出ることは出来ます。前向き駐車が比較的敬遠されるのは、離れた距離から回転して入ったら、離れた距離まで回転して出なければならないことです。入る時は前進なので、外側に車が並んでいても安全を確保しやすいですが、出る時は後退しながらの安全確認とハンドル操作なので難しく感じるのです。

離れた距離から回転して入ったのに、出る時は短い距離で回転して出ようとして、車の前部の角を隣の車に接触させる事故が起きます。前輪とバンパーまでの距離(オーバーハング)があることと、前輪は後輪より外側を通る(この場合外側のタイヤなので内輪差でなく外輪差)ためです。この点さえ気を付ければ前向き駐車の事故はかなり防げます。(バック駐車でも出て行く時の内輪差と、入る時の後方のオーバーハングはあるので危険度は同等ですが)

広い通路スペースの駐車場なら前向き駐車、狭い駐車場ならバック駐車が有利という結論です。ただ、最近思うのは、前向き駐車の方が安全かも知れないという気がするのです。なぜかというと、バック駐車で入る時と、前向き駐車してバックで出て行く時の、注意の仕方、時間のかけ方、慎重さを比較すると、後者の方が安全に気を使っているように感じるからです。慣れの問題かも知れませんが、前向き駐車を改めて評価する必要はあると思います。