4年程前の春の頃の出来事です。休日に家族で花見に出かけました。車で1時間半ほどの所で、近隣では有名な花見の名所です。近くには大きな川が流れ、遊歩道のある土手沿いに植えられた桜並木には、2週に渡って沢山の露店が出ます。

年々客足が増え、この時も予想以上の人手で、無料駐車場は既に満車、有料の駐車場も近いところは空いていませんでした。駐車場の警備員に地図を渡され「すいません。一杯なんで、ここの駐車場へ行ってください」と言われました。私たちは「もっと早く出ればよかった」などと呟きながら、教えられた駐車場へ向かいました。

花見の土手から歩いて10分近くはかかると思われる場所に臨時駐車場はありました。臨時駐車場は1つではなく、3つくらいの区画に分かれていました。係員はいないらしく、3つの入り口のどこからも車は自由に入れるようでした。

ですから、どこに空きスペースがあるのかも分からず、どれかの区画に入って自分で探すしかありません。しかし、どの入り口にも何台かの車が入り切れずに待っている状態でした。

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家族を先に降ろして場所取り

「まいったなー」などと言い乍ら、とりあえず空いていそうに見えた一番奥の区画に並んでいました。順番が来て、区画の中に入って行こうとしていると、私たちの後に付いた車から、母親と中学生ぐらいの女の子が降りて、駐車場の中へ走って行きます。「何だろう?」と見ていると、空いている所を見つけたらしく、白線の枠の中に2人で立って場所取りをしたのです。

その区画には空いている場所はそこしかなく、私たちは仕方なくそこから出て、別の区画に並びなおしました。少し悔しさはありましたが、確かにそうでもしないと、駐車場の外からはどこに空きスペースがあるのか良く分かりません。係員がいないので、先に入った車が駐車できるとは限りません。後から来た車でも、運が良ければ先に停められます。

別の区画でも何人か先に人を下ろして場所を探しに行きました。「後から来た人が先に場所を取っていく」と思うと、黙って見ていられず、「うちもそうしよう」と、私が先に降りて駐車場の中へ入りました。

運良く隅の方に1台空いたのを見逃さず、私はその枠の中に立って、車の方へ合図を送りました。

しかし、そこへ1台の黒いワンボックスカーが表れました。確かセレナかノアだったと思います。20代中頃の男の人が、「おばさん、危ないからどいて!」と手でどくような仕草をしました。私は思わず、「先に来ているから!」と答えました。

まさか先に枠の中に入っているのを見て、どけという人がいるとは予想していませんでした。その時は自分がルール違反をしていると思っていませんでした。現に、私たちも後から来た人に先を越されていましたから。

「早い物勝ち」がこの場所のルールと思っていたのです。

駐車場で権利を実行できるのは人でなく車

しかし、その若い男の人は確信を持った言い方で続けました。「駐車場は人がいる所じゃないから。駐車場は車を停めるところだから。危ないから早くどいて!」

そういうと、その車はゆっくりバックして入ろうとします。私も、納得がいかないので、「他の人もそうしているから!」と抵抗しましたが、車は無視するようにゆっくり入って来ます。

私は諦めて枠の外へ出ましたが、悔しさがこみ上げて来たので、運転席に近づくと、その男の人も降りてきました。意外と冷静な表情で、「ここは駐車場だから。人間が立っているところじゃないから」と諭すように言いました。

私も「他の人もやってるから」と言いかけましたが、その根拠に説得力がないのを自分で感じ始めていました。

他の人もやってるは弱い

ワンボックスからは、赤ちゃんを抱えた若い奥さんが降りてきました。奥さんの表情は、気まずそうに見えました。「理屈っぽい夫は、いつもこうなの。すみません」という表情に私には見えました。

確かに私にも、理屈っぽい考え方をする人に感じました。おそらく、ほとんどの人は、駐車する枠の中に先に人が立っていたら、「先に取られちゃった。残念。」ぐらいの反応で、多少悔しくても、敢えて事を荒立てない選択をするのではないでしょうか?私もそうでした。

「他の人がどうだとか関係ないです。ここは駐車場。車を停めるところで、人が立っているところじゃないです。」冷静で確信に満ちた主張に、私も感化され始めました。「確かに・・・」

原則が一番強い

私が納得したのが分かると、男の人も優しい目つきになり、「うちも、もうずっと他の駐車場をたらい回しにされて、やっとこの駐車場に来たんです」と、苦労したことを漏らしました。若い夫婦と赤ちゃんの3人の姿を見て、つまらないことで向きになった自分が情けなくなりました。

「どうもすみませんでした。あなたの言い分の方が筋が取ってるね」私はそう言って、その場を離れ自分の車の方へ戻りました。

それから直ぐに、自分たちも駐車することが出来ました。

私は花見の最中も、駐車場での事を考えていました。「私には、あんな風に堂々と自分の意見を言うことはできない」若い人に教えられて、なんだか自分が悔しくて、小さく思えました。

同時に、どんな時でも原則は強いんだと思いました。私のようにその場の状況に自分を合わせてしまうと、いつのまにか原則から外れてしまいます。その場しのぎの言い訳で誤魔化そうとします。私などはそれで誤魔化されてしまいますが、一番強いのは原則を貫ける人です。

そういう人に私もなりたいと思いました。ただ、あっちこっちで、ぶつかるだろうな、とも思いました。