アパートの敷地内の駐車場や、隣接する飲食店の駐車場に、バック駐車で止めたまま、アイドリング(暖機運転)している車の排気ガス。

本人には悪気はなくても、どこからともなく部屋の中に入って来る排気ガスを、毎日吸わされている側にとっては深刻な問題です。

  • 少しづつでも、毎日吸い続けたら体にどんな影響が出るのか?
  • 排気ガスの特にどんな成分が良くないのか?

駐車場の管理者や車の所有者に、苦情や改善のお願いをする場合、具体的に何が悪いのか、体にどんな影響が出るのか、知っておく方が説得力があります。

排気ガスは目に見えにくいだけに、出す方は軽視しがちです。いつ被害者の立場になるか分かりません。排気ガスのことを知っておきましょう。

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排気ガスの有害成分

排気ガスの大部分を占めているのは、窒素(N2)、二酸化炭素(CO2)、水蒸気(H2O)で、これらの成分は直接的には有害ではありません。(CO2の増加は温暖化につながり間接的には有害)窒素は肥料になりますし、二酸化炭素や水蒸気は人間の体や動物、植物からも出ています。有害物質はそれら以外の微量な割合の中に含まれています。

ガソリン自動車の排気ガス中の有害成分の割合

<参照画像:ガソリン自動車の排気ガス中の有害成分の割合

ガソリン(C8H18 など)と軽油(C15H32など)は、主に炭素(C)と水素(H)から出来ています。これらの燃料をエンジンの中で燃やす過程で、炭素(C)が、エンジンの中で完全燃焼すれば、酸素(O2)と結びついて二酸化炭素(CO2)がマフラーから外へ出されます。二酸化炭素(CO2)が多く排気される程、燃焼効率の良いエンジンになります。

燃料が不完全燃焼すると一酸化炭素(CO)と炭化水素(HO)が出来ます。その他に、残った成分から窒素酸化物(NOX)、粒子状物質(PM)が生まれます。この4種類が有害とされる排気ガスの代表的な成分です。

この4種類の有害物質は、一酸化炭素と炭化水素は主にガソリン車、窒素酸化物と粒子状物質はディーゼル車から排出される特徴があります。

ディーゼル排ガスの粒子状物質(PM)

<出典画像:「ディーゼル排ガスの粒子状物質(PM)」

一酸化炭素(CO)

不完全燃焼の場合には酸素分子1つが不足して、一酸化炭素(CO)が作られます。無色、無臭で気づきにくいですが、少量でも毒性が強いので危険です。

炭化水素(HO)

炭化水素(HO)も不完全燃焼の産物です。ガソリンや軽油の主成分の炭素(C)と水素(H)が、不完全燃焼のために燃え残り結合したものです。

窒素酸化物(NOX)

代表的な窒素酸化物の一酸化窒素(NO)と二酸化炭素(NO2)を総称してNOXと表現しています。炭素(C)と酸素(O2)が結び付くべきところ、吸気した空気の中の窒素(N2)が酸素(O2)と結合して発生します。

粒子状物質(PM)

ガソリンエンジンではほとんど発生しません。ディーゼルエンジンの燃焼から発生した煤(すす)です。1ミリの1000分の1の大きさで、マクロメートル(1/10x6m、単位はμm)で表される固体や液体の微粒子です。PMとはParticulate matterの略で、2.5μm以下の微小粒子状物質はPM2.5と呼ばれています。

PMの大きさ模式図
<出典画像:「PMの大きさ模式図」

PM2.5の大きさ写真
<出典画像:「PM2.5の大きさ写真」

排気ガスの人体への影響

一酸化炭素(CO)

血液の中のヘモグロビンという、細胞に酸素を送り届ける成分と結びつくと、酸素を運搬することができなくなります。炭や練炭などを、締め切った空間で燃やして起きる一酸化炭素中毒の原因になります。最悪の場合は死にも至る有害な物質です。

一酸化炭素の濃度と中毒症状

<出典画像:「一酸化炭素の濃度と中毒症状」

炭化水素(HO)

炭化水素(HO)と窒素酸化物(NOX)が紫外線のエネルギーで化学反応(光化学反応)を起こして、光化学オキシダントという物質を作ります。光化学オキシダントは、粘膜を刺激して目の痒みや喉の痛み、呼吸器に障害を及ぼします。いわゆる光化学スモッグの原因になります。

窒素酸化物(NOX)

炭化水素と反応して光化学オキシダントの元になる以外に、一酸化二窒素(N2O)という形になってオゾン層の破壊(温暖化)、硫黄酸化物(SOX)と結びついて酸性雨の原因になります。

粒子状物質(PM)

鼻、喉、気管支、肺に沈着して、喘息やアレルギー性鼻炎を悪化させ、慢性気管支炎や肺気腫などの慢性的な肺疾患の原因になる可能性があるとされています。

体に吸い込まれた粒子は、10μmより大きいものは気管支の繊毛運動で運ばれ、溶けて咳や痰、鼻水として排出されます。それより小さい粒子は肺の細胞に沈着します。それでも白血球の一種の肺胞マクロファージが食べて(捕食)分解、無害化してリンパ液、静脈を経由して体外に排出されます。

PM2.5をマクロファージが捕食

<出典画像:「PM2.5をマクロファージが捕食」

このように体内に入った粒子は自然治癒力で次第に取り除かれていきますが、溶けにくい粒子は600日で半減するも、3分の1は体内に残留するという調査報告もあります。(「微小粒子状物質健康影響評価検討会報告書」)
微小粒子状物質が人体に与える影響
<出典画像:「微小粒子状物質が人体に与える影響」

発がん性については、動物実験では肺がんへの影響の可能性は認められていますが、人に対してはまだ確定されていません。

一酸化炭素(CO)と粒子状物質(PM)に特に注意

ガソリン車では一酸化炭素(CO)、ディーゼル車では粒子状物質(PM)が特に注意が必要です。一酸化炭素の初期症状は吐き気や頭痛です。無色、無臭なので気づくのが遅れないように気を付けます。暖機運転をしがちな寒い時期は、駐車場からの排気ガスが家の中にこもらないように注意です。

粒子状物質(PM)は主にディーゼル車からの排気ガスなので、トラック専用の駐車場でもない限り、心配する必要はありません。むしろ、交通量の多い幹線道路沿いに、長く住まわれているようなケースが心配です。

窒素酸化物の発生源寄与割合

<出典画像:「窒素酸化物の発生源寄与割合」

ただし、紫外線の強い時期では、一般的な駐車場でも、炭化水素(HO)と窒素酸化物(NOX)が光化学オキシダントを発生しやすくなるので、目や喉などの粘膜を傷めないように気をつけます。