妊娠したら車の運転は止めるべきか、続けても大丈夫か、迷う人は多いと思います。

誰に訊いたとしても、その人の立場によって返って来る答えは違います。親などの身内は即座に、「危ないから止めろ」と言い、医師に相談すれば、「おすすめしないが自己責任で」という無難な答えが返ってきます。

経験者のアドバイスは経験の内容で異なり、「産気づいたまま病院まで運転した」という強者(つわもの)から、「妊娠が分かった時から止めた」という慎重な人まで様々です。

車を使わないと生活が成り立たない環境の人にとっては、運転を直ぐに止める選択肢は困難な場合も多いと思います。

運転を止めるにしろ続けるにしろ、最終的に判断するのは自分自身です。止めるのも続けるのも、どの時点からというタイミングで決めたいという考え方もあります。

自己責任で選択するにしても、判断材料が欲しくなります。運転を止めるのか続けるのか?いつ止めるのか、いつまで続けるのか?どんな判断材料があれば決断しやすいのでしょうか?

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判断する視点

人によって体質も性格も違います。生まれつき丈夫な人や虚弱な人、楽天的な人や神経質な人など様々です。

「妊娠したら運転はどうする?」かの、万人に適した答えはありません。自分で判断するしかありませんが、どこを見て判断したらよいのかという視点はあります。

個人の体調で判断する

先天的にしろ後天的にしろ、体質や体調は千差万別です。同じ人でも時と場合によっても異なります。

「車は神経を使うからお腹の子に良くない」という一般論は、建前としてはもっともですが、神経を使うことは他にも沢山あって、個人にとっての説得力のある選択材料にはなりにくいのです。

自分が運転を止めるか、続けるかの判断をするには、その時点の自分の体調を見て決めるべきです。平均的体調とか固定的体調などというものはなく、体調はどれも個人的で常に変化しています。

自分の、その時点の体調に従って判断すべきです。

自信の有無で判断する

自信は多くの困難を乗り越えさせます。しかし、自信は誰でも、いつでも湧いてくるものではありません。もともと運転に自信がなかったり、体調に自信がなければ持てません。

体調だけの判断でなく、妊娠しても運転する自信があるかどうかも、判断の拠り所にするべきです。妊娠していても、その時点で運転に自信を持てている状態かは重要です。

体調に問題がなくても、自信のない行動は事故につながる可能性を高くします。

運転する距離や目的地、乗り慣れている車かどうかでも自信は変わってきます。一般論でなく、個人的なその時点の自信の有無によるのです。近くのスーパーだけ行く、病院だけ行くなど、運転する場面も、ケースバイケースで選択しても良いのです。

他人がどう思うかでなく、自分が自信を持てるかどうかで判断します。母親が不安になることが、胎児には一番良くない事ですから。

止めるか続けるかの判断材料

それでは、具体定な判断材料を見ていきましょう。

アンケート結果に納得できるか?

多数決や他人の意見の割合で自動的に決めるわけではありませんが、経験者達がどういう行動を選択したのかを知ることは参考になります。相談する人が少ない人にとっては、自分の選択を後押しする材料にもなり得ます。

『たまごクラブ』『ひよこクラブ』を出版しているベネッセが、3,779人を対象に2018年3月に実施した「妊娠中に車の運転した?」というアンケートを基に、0~5歳児ママの回答を再集計したものがあります。(出典:『「妊娠中に車の運転した?」』https://st.benesse.ne.jp/ninshin/content/?id=23804

妊娠中に車の運転してた?

第1位よく運転していた370人(44.8%)
第2位妊娠中は運転しなかった217人(26.3%)
第3位たまに運転していた115人(13.9%)

約6割近くの人が妊娠中に運転をしています。運転をしない選択をした人も、3割近くいることも確かです。

妊娠中の運転、いつごろまでしていた?

第1位妊娠中に運転したことはない281人(34.0%)
第2位出産直前まで267人(32.3%)
第3位妊娠後期(8カ月~10カ月)まで191人(23.1%)

1番目の質問と多少矛盾するように見える数値がありますが、約6割近くの人が妊娠後期まで運転していて、約3割が妊娠中には運転しなかったという割合では一致しています。

妊娠中で運転ができないとき、誰に頼んでた?

第1位620人(75.1%)
第2位実父母294人(35.6%)
第3位公共交通機関を利用158人(19.1%)
第4位タクシーを利用131人(15.9%)

もし、夫や実父母の協力が得られないとしたら、妊婦自ら運転することを選択するしかない状況が分かります。

約6割の人が、妊娠中に運転する選択をし、約3割の人が運転をしない選択をしたことが分かります。

経験者たちの選択の割合を、自分の個人的な選択の判断材料として、自分が納得する解釈で利用すれば良いと思います。どちらも、確実な割合としてあるのですから。

地域にもよりますが、妊娠の初期から、あるいは途中から、運転をしないで「陣痛タクシー」などのサービスを利用する選択肢もあります。

<出典動画:『緊急時も安心! 陣痛タクシーの使い方』YouTube>
参考:「陣痛タクシー」日本交通

妊娠全般の不安を打ち消せるか?

妊娠中はホルモンの関係で、眠気を催したりイライラすることが多くなり、運転中のとっさの判断力や瞬発力が鈍る恐れがあります。

また妊娠中の貧血や高血圧の症状のために、運転中に突然、頭痛やめまい、吐き気などを起こす可能性もあります。

妊娠初期の不安を打ち消せるか?

妊娠5週目(2ヶ月)から妊娠14週目(4ヶ月)までは、ホルモンのバランスが大きく変化して、体調を崩しやすく、流産しやすい時期です。

突然の眠気に襲われることも多く、運転に集中することが難しい時期でもあります。

つわりによる体調不良で、運転中に吐いてしまうようなことも起こり得ます。往きはなんともなくても、帰りにつわりが始まって苦労することもあります。

家の中では問題ないのに、車に乗ると貧血気味になったり、つわりの症状が出る人もいます。

妊娠中期の不安を打ち消せるか?

妊娠15週目(5か月)から27週目(7カ月)は安定期ですが、車の振動によって、お腹が張ったり、腰痛の症状が表れたりする時期です。振動による切迫早産の可能性も出てきます。

動作が遅くなったり、注意力が散漫になり、信号無視や事故を起こす可能性も次第に高まってきます。

目で確認しているのに、直ぐにブレーキを踏めなかったり、ハンドル操作が遅れてしまうことも起こりやすくなってきます。

妊娠後期の不安を打ち消せるか?

妊娠28週目(妊娠8ヶ月)以降はお腹も大きくなり、普通に動くだけでも大変になってきます。疲れやすく集中力が低下しやすい時期です。

妊娠後期に入ると、出血・子宮収縮・破水などがいつ起こってもおかしくありません。

貧血も起こりやすく、お腹も張りやすくなり、運転中に目の前が真っ暗になり、冷や汗が出てくることもあります。

お腹が大きく膨らんでくると、後ろを振り向いたり、前をのぞき込んだりして、安全を目視で直接確認することが出来にくくなります。

ブレーキを掛ける時に、腹圧が上がりやすくなります。シートの背もたれを後ろへ倒して、腹圧が掛からないようにする方法も考えられますが、体形によっては、かえってペダルに足が届きにくくなり、余計に腹圧がかかってしまうこともあります。

お腹のせいでブレーキに足が届かなくて、もう少しでぶつかりそうになったとか、ハンドルが回しにくくなった、足がつりやすくなったという経験者の声もあります。

予定日2週間ぐらい前からは、破水、切迫早産、陣痛が起こる可能性が高くなってきます。

後悔しない覚悟があるか?

  • 何かあった時、自分の選択に後悔しないか?
  • 医者や他人の忠告に従っておけば良かったと後悔しないか?
  • 医者や他人のせいにしないで、自分の責任だと言える覚悟はあるか?

危険に備えた自己責任

勿論、合併症や切迫流産・切迫早産などの危惧のある妊婦は運転すべきではありません。悩んでいる人の多くは、そういうことを承知の上で決めかねていると思います。

妊娠中に車を運転するかしないかは、どこまでいっても個人の判断で、結果は自己責任です。

体調に問題もなく、運転に不安のない人と、どちらか、あるいは両方に自信がない人との判断は違ってきます。

自宅で安静にしていてもトラブルになる場合もあり得るし、ハードな運転をこなしてしまう人もいます。私は、体調と自信の視点から、決断をすれば良いと考えます。

そして、体調や自信は常に変化するので、その都度、選択の確認をする必要があります。

もし運転することに決めた場合でも、同時に危険に備えておくことが、自己責任のある選択だと思います。

妊婦のシートベルトのかけ方

道交法(道路交通法施行令第26条第3の2項)では、妊婦がシートベルトを着用しなくても許される条件を、「妊娠中であることにより座席ベルトを装着することが療養上または健康保持上適当でない者が自動車を運転するとき」と定めています。

条文からすれば、お腹が大きくなってからを想定していますが、実際には妊婦の自己判断に委ねざるを得ません。他人が見た目だけで決めつけることは出来ません。

日本産科婦人科学会の見解は、「シートベルトが腹部を横断しないように着用すれば母体と胎児への交通事故時の障害を軽減できる」のように、シートベルトの着用を勧めています。

実験映像を見ると、妊婦であってもシートベルトの着用は必要であることが実感出来ます。

<出典動画:『妊婦のシートベルト着用効果実験』YouTube>

時速40㎞でも、シートベルトを装着していないと、腹部がハンドル下の部分に潜り込んで衝突してしまうことがよく分ります。

着用は免除され得るとは言え、安全のためには着用すべきです。問題は「腹部に掛けない」ことです。妊婦の正しいシートベルトの着用の注意点は以下の通りです。

  • 肩ベルトは鎖骨の中央、左右の乳房の中央を通り、腹部に掛からないようにする。
  • 腰ベルトは腹部を避け、腰の出来るだけ低い位置を通す。
  • 両ベルトの捻じれと緩みがないようにする。

シートベルトでお腹を圧迫すると、お腹の中の胎児も苦しいのか、動きまわるのを感じることがあります。

マタニティシートベルトの利用

腰ベルトをより安全な位置に固定して使うための補助具が市販されています。「マタニティーシートベルト」と呼ばれる補助具です。

座席に置くクッションのフックに、股の間から腰ベルトをひっかけて、両方の太ももを固定します。腰の位置に掛けるよりも、もっと下の太ももに掛けることでお腹を圧迫しないようにしています。

<出典動画:『タミーシールド マタニティシートベルト補助具』YouTube>

<参考:マタニティシートベルト一覧(Amazon)>

常時携行するもの

  • 保険証と母子手帳
  • レジ袋とウエットティッシュ
  • ビニールシートとナプキンとバスタオル
  • マタニティマーク

<出典動画:『【妊娠中】車移動!これを準備していました』YouTube>

事故や突然具合が悪くなった場合に、保険証と母子手帳があると、どの病院でも診察を受けられて、救急隊員にそれまでの経過を伝えることが出来ます。

つわりや吐き気に襲われた時、いつでも手の届くところにレジ袋やウエットティッシュを用意しておきます。

破水や出血があった場合に備えて、座席にビニールシートや赤ちゃんのおねしょシートを敷いたり、ナプキンやバスタオルを用意しておきます。

妊婦であることを示すマタニティマークは、自治体や駅、雑誌の付録、市販などで手に入りますが、車に張り付けるタイプのものもあります。

バスや電車の中などでマタニティマークを付けていると、不妊や子供のいない人から、嫉妬の暴力を受けたという事例もあります。

車に張り付けた場合には、乗り物の中でのトラブルのようなことは少ないと思います。身障者用の駐車スペースを利用出来る場合や、運転中に体調が悪化した場合に救急隊員に示せるメリットがあります。

次の動画は、車に張り付けるタイプのマタニティマークに、マグネットを貼って、取り外し可能なように作った事例です。

<出典動画:『マタニティマーク おなかに赤ちゃんがいます マグネット ステッカー(車用) 』YouTube>

<参考:マタニティマーク一覧(Amazon)

最善のルートを選択

近道よりも、振動が少ない道路や、運転しやすいルートを走るようにします。

砂利道よりも舗装された道路、曲がりくねった道や、一時停止して左右の確認が必要な道よりも、信号機のある広めの道路を走る方が、身体も精神的にも負担がかかりません。

買い物でも、利用しやすい駐車場、段差などの振動が少ない駐車場のある店舗を優先的に選択します。

食料品の買い物は、妊娠と出産の期間だけ、生協などの宅配サービスを利用して、運転しなければならない回数を減らす選択肢もあります。

通勤する場合にも、普段より時間に余裕を持って、気分が悪くなって途中で休むことが出来るようにします。

妊婦の正しい運転姿勢

  • 深く腰掛け、背もたれに背中を付けた状態で、ブレーキペダルを奥まで踏めること。
  • 背もたれに背中を付けた状態で、ハンドル操作が出来る事。
  • お腹とハンドルが近すぎていないこと。
  • 運転中も、背持たれから背中を離さないようにすること。

長時間運転は避ける

やむを得ず長距離を運転する場合には、小まめに休憩を取ります。お腹が張ったり、眠気を感じたら直ぐに身体を休めます。

運転中にお腹が張ってきて痛みを場合には、出血がしていないことを確認して、座席を倒して休むようにします。