一応マニュアル車の普通免許は持っているものの、自動車学校を卒業して以来、ずっとAT車しか運転してこなかった人が、就職や転職などの仕事先の都合で、どうしてもマニュアル車を運転しなければならなくなった人のための緊急対策です。

私も独身時代にマニュアル車で普通免許を取り、最初は実家のマニュアル車を運転していました。その頃はAT車の方が慣れないので、AT車は怖いと感じていたぐらいです。

しかし、一旦AT車の便利さを覚えてしまうと、もうマニュアル車には戻ることはなく、結婚するまでそのままAT車を乗り続けました。

でも、長い人生、マニュアル車に乗る必要がある時があるものです。町内会の役員をしていた時、祭りなどの行事の準備で椅子やテントを運ぶのに、役員の自家用の軽トラックを使いました。

その軽トラックはマニュアル車でしたが、丁度持ち主の役員が他の用事でいなかったので、他の人が運転することになりました。

重たい荷物を満載した軽トラックを、坂道の上にある場所まで運ぶ必要があるのですが、その場には女性の役員しかいなくて、誰も運転したがりませんでした。

「私、オートマしか乗ったことないから」という人ばかりでしたので、勇気を出して私が運転することになりました。

長い間マニュアル車を運転していなかったので、クラッチの入れ方の感覚を体が覚えていません。無駄な空ぶかしをしたり、動き出して直ぐにエンストしたり、左折や右折でのギアの選択を間違えたり、挙句の果ては、坂道発進を失敗してズルズル後ずさりして、焦りまくりでした。

私はその恥ずかしい体験をしてから、悔しくてたまらず、安い中古の軽トラックを購入して、毎日坂道発進などの練習を重ねました。お陰で、役員をしていた数年間は、私も軽トラックも、町内会のために役に立つことが出来ました。

仕事の都合で、毎日マニュアル車を運転せざるを得ない状況に置かれた人は、相当な不安になると思います。

AT車では普通に運転出来ても、乗り慣れないマニュアル車を運転しなければならなくなった人のための、私の体験的アドバイスです。

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動き出す瞬間のクラッチの離し方

マニュアル車の最も難しく感じる操作は、クラッチのつなぎ方と切り方だと思います。AT車ならお任せでしてくれる操作を、自分がしなければなりません。

一番避けたいのがエンストです。エンストしやすいのは低速の状態の時で、最もエンストの確立が高いのが、車を発進する時です。

  1. 右足でブレーキペダルを踏む。
  2. 左手でシフトレバーをニュートラルに入れる。(シフトレバーを左右に動かしニュートラル状態を確認する)
  3. 左足でクラッチペダルを踏みクラッチを切る。
  4. エンジンを掛ける。
  5. シフトレバーを1速に入れる。
  6. サイドブレーキを開放する。
  7. アクセルペダルを軽く踏み込みながら、同時にクラッチペダルを上げて行く。
  8. クラッチがつながった感触を感じたら、アクセルペダルを更に踏み込み、クラッチペダルから足をゆっくり離す。

この一連の流れが、エンジンの始動から車が動き出すまでの操作になります。

一番難しいのが、7と8の部分です。クラッチがつながった感触を体で感じて、ゆっくりと確実なつながりに持って行く瞬間です。

クラッチがつながる瞬間を感じ取る練習

踏み込んだクラッチペダルを、どの位上げたらクラッチがつながるのか、左足を上げる位置、上げ加減を、体が覚えることが大切です。

その感覚を身に付けるために私がやった練習は、1速にギアを入れてからアクセルを踏まない状態で、クラッチペダルを上げていくだけで、クラッチがつながる瞬間を確かめることでした。平らな安全な場所で行います。サイドブレーキは開放しておきます。

アクセルペダルを踏み込まなくても、クラッチを1速につなげるだけで、車はゆっくりと動き出します。クラッチペダルを、あるところまで上げた時に、重くなる瞬間があります。その瞬間の感覚を、左足に感じながら、そのままクラッチペダルを下げたり上げたりして(クラッチを切ったりつないだりして)、その動作を何度も繰り返します。

そうすると、「左足の膝をこの辺りまで上げた時に、クラッチがつながるのだな」と分かります。この感覚は坂道発進の時にも必要です。

<出典動画:『マニュアル車の発進のやり方!半クラッチ編』YouTube>

クラッチがつながる瞬間のアクセルとの連携

クラッチがつながる位置を左足が覚えたら、その位置に来るまではアクセルを踏む必要がありません。クラッチがつながる位置まで「サッ」と左膝を上げてキープし、そこからアクセルペダルを踏み込むイメージです。

クラッチがつながる位置で、一瞬左足を止める感覚ですが、高いギアに上げる程時間は短くなります。時間の長短はありますが、つながる瞬間に一旦左足を上げるのを止めるのは、どのギアに入れる場合でも必要です。(時間の長短と言っても一瞬のことですが)

マニュアル車になれない人は、クラッチがつながる前からアクセルを踏み込み、クラッチがつながる位置を探りながらアクセルも踏み込んでいきます。そのために無駄な空ぶかしになるのです。

アクセルを踏み込む前に、クラッチがつながる位置まで速やかに左足を上げて止め、クラッチがつながってからアクセルを踏み込んでいきます。

この後のクラッチペダルとアクセルペダルの関係は、遊戯のシーソーのような関係がイメージにピッタリです。左足のクラッチペダルが上がると、その分、右足のアクセルペダルを踏み込んでいきます。

大事な点なので繰り返しますが、クラッチがつながる瞬間にクラッチペダルを上げるのを止めます。1速につなげる場合が最も止める時間が長く、2速、3速とギアが高くなるに従って、止める時間は短くてつながるようになります。4速、5速ではほとんど微かな感覚になります。

ギアが高くなっても、つなぐ時に一瞬止める感覚は残ります。一瞬止めてクラッチがつながったらアクセルを踏み込むのは、どのギアでも同じです。

クラッチがつながる位置を左足で記憶しておけば、どのギアに入れる時でも、そのつながる位置で一瞬止めることが出来ます。

これも繰り返しますが、クラッチがつながった後はシーソーのように、クラッチペダルを上げた分だけアクセルペダルを踏み込みます。

確実な坂道発進の仕方

坂道では、車の重力が加わるので、クラッチをつないだだけでは坂を登っていきません。クラッチをつないだ瞬間に、アクセルペダルを踏み込む必要があります。

しかし、ほとんどの操作自体は平らなところで行うのと同じです。問題は、クラッチがつながる瞬間にサイドブレーキを開放しなければならない点です。

平らなところでは、クラッチがつながる前にサイドブレーキを開放しておいても問題ありませんが、坂道では車が下がってしまうので、つながる前に開放できません。

坂道発進を失敗する人は、クラッチがつながる前にサイドブレーキを開放してしまうからです。なぜそうしてしまうかというと、サイドブレーキの開放が遅れると、クラッチがつながり、アクセルを踏んで前に動き出すのを、サイドブレーキが押さえつけてエンストしてしまうからです。

エンストしないように、クラッチがつながったと思ったら、直ぐにサイドブレーキを開放しなければという焦りがあるのです。

私も最初そうでした。クラッチがつながらない内に、サイドブレーキを開放してしまって、車が後ずさりしてしまったのです。

サイドブレーキの2段階開放

平地でのクラッチがつながる位置や感覚、アクセルの踏み込み具合はマスターしたとします。後はサイドブレーキの開放の仕方です。

サイドブレーキの開放の仕方を工夫することによって、平地に近い状態にすることです。

平地では後ろに掛かる重力がないので、弱いクラッチのつながりでも前へ進みます。坂道では重力の分だけ、確実にアクセルを効かせて前へ進む力を確保してからでないと、サイドブレーキを開放できません。

そのため、クラッチがつながって、アクセルを踏み込んで推進力が生まれるまで、サイドブレーキを効かせておく必要があります。

しかし、サイドブレーキをいきなり開放すると、弱い推進力では、重力に負けて前に進めずエンストしてしまいます。あるいは、半クラッチのまま、無駄にアクセルを踏んで空ぶかしして、坂の途中で停車状態になってしまいます。

解決方法は、サイドブレーキを一遍に開放するのではなく、車が下がらない程度に半分ほど開放します。サイドブレーキのロックを押し、少しだけ下げると、車は下がらない状態でも、前に進むのを妨げない程度の摩擦力を維持しています。

この状態のまま、平地の場合と同じ要領でクラッチをつなぎ、アクセルを踏み込んでいきます。そうすると半分のサイドブレーキの摩擦力に推進力が勝って、車が前に動き出します。そうして初めて、サイドブレーキを全て開放します。

順序的にはこうです。

  1. サイドブレーキを一杯に掛けた状態で、クラッチペダルを上げていき、クラッチがつながるのを確認する。
  2. クラッチがつながったと同時にアクセルペダルを軽く踏み込む。
  3. サイドブレーキのロックを外し、少し緩めて半分ほど開放する。その状態でサイドブレーキを維持する。
  4. 車が前に動き出すのを確認する。
  5. サイドブレーキを全て開放する。

サイドブレーキの2段階の開放で、車がずり下がることもなく、前に動けずにエンストせずに、確実に坂道発進が出来るようになります。

自動車学校では、クラッチをつなぐ前に、アクセルを少し踏んでエンジンの回転数を2,000~3,000回転に上げるようですが、私はそういうことはしていませんでした。クラッチをつないでからアクセルを踏んでいました。

マニュアル車に慣れてくると、急な坂でなければ、サイドブレーキを掛けずに、ブレーキペダルを踏んだまま、クラッチをつないでいき、車が前に動くのを感じたら、ブレーキペダルから足を離し、アクセルを踏み込むという操作も出来るようになってくるでしょう。

<出典動画:『MTの運転テクニック!坂道発進』YouTube>

右足のつま先でブレーキを踏んで、右足のかかとでアクセルを踏む操作(ヒール&トゥ)をする人もいます。私はやったことがないので、何とも言えません。レースでシフトダウンをスムーズにするテクニックのようですが、坂道発進で利用するのは難しそうですね。

<出典動画:『ヒールアンドトゥで坂道発進をやってみよう (トーヒル坂道発進)』YouTube>

ギアのシフトアップは十分加速してから

1速から2速へのシフトアップは、それほど加速しなくても大丈夫ですが、2速から上へのシフトアップは、前のギアで十分加速して、エンジンの回転数が上がり切ったところで、上のギアを入れるようにします。

加速が不十分で回転数が足りない状態で上のギアに入れてしまうと、回転不足でエンジンがガタガタと鳴り、ノッキング状態になってしまいます。

この辺りのギアチェンジの感覚がAT車との違いです。私の軽トラックは、1速があまり伸びないので、車が動き出したら直ぐに2速に入れていました。(時には2速で発進することも良くありました)2速から3速(3速から4速でも)では、十分アクセルを踏み込んで、これ以上伸びないところまで加速してからギアチェンジします。

加速が足りないと(エンジンの回転数が足りないと)、その後の加速がもたついてしまいます。ギアにはそのギアに合った速度があることが分かります。

アクセルを踏み込んで加速する時は、体も車と一体になって力を入れるので、結構体力的に疲れることもありました。マニュアル車の魅力でもあるのですが。

曲がり角のギアの落とし方

AT車でも同じですが、曲がり角では、曲がる前に十分に減速します。マニュアル車でも、安全に曲がれる速度まで減速して、ギアを落としてから曲がります。

左折でも右折でも同様です。右折で交差点の中央で対向車の切れ目を待つ時は、2速で発進すると、もたつかずに右折できます。

減速してもギアを落とさずに角を曲がろうとすると、速度とギアのバランスが取れずに、エンジンがガタガタと音をたててノッキング状態になります。

もっとも危険なのは、ノッキングを避けるために、クラッチを切っったまま角を曲がろうとすることです。あるいは、ギアをニュートラルに入れて曲がることです。どちらも惰性を付けて回るので、スピードの制御がしづらく危険です。必ず角の手前で曲がれる速度に減速して、ギアを落としてから曲がります。

私の軽トラックは前進5速でしたが、5速は速度の速い長い区間でしか使わず、ほとんどは4速で直線区間を走ります。4速のまま角の手前まで減速して、2速にギアを落としてからゆっくり角を回ります。カーブの緩やかさによっては、3速で回ることもあります。

4速のまま角を曲がろうとすると、ノッキングしないように速度を落とさないで角を回ろうとして危険です。また、角の手前でギアを落とした方が、角を回った後の加速もスムーズです。

<出典動画:『MTの運転テクニック!コーナーでのシフトチェンジ』YouTube>

超低速をキープする半クラッチの仕方

半クラッチを多用する場合があります。

渋滞などは代表例ですが、立体駐車場などの緩やかな坂での順番待ち、坂道の点滅の赤信号や一時停止など、サイドブレーキを掛ける程ではないが、一時的に停車状態をキープしたい場面はあります。

動くか動かないぐらい、あるいは動いてもわずかな状態を維持したい時は、半クラッチを使いますが、平地での半クラッチは問題ないと思います。難しいのは傾斜のある場所での半クラッチです。

速度を(あるいは動かない状態を)一定に保つには、アクセルの方、つまりエンジンの回転数を一定にして、クラッチの方を切ったりつないだりして調節します。

クラッチとアクセルの両方を変化させて調節しようとすると、速度が安定しません。アクセルは固定したまま、クラッチの方を調節して半クラッチを操作します。こういうクラッチ操作のことを「断続クラッチ」って呼んでいるそうです。

<出典動画:『苦手な半クラを克服した『断続クラッチ』教習所第一段階・第二段階?~GOPRO的教習所~』YouTube>

停まる時はギリギリまでギアを入れたままブレーキ

慣れない人がマニュアル車で怖いと感じるのが、エンストとノッキングです。

そのため、車を停める時に早めにギアをニュートラルに入れてブレーキを掛けようとする人がいます。

ギアが入っている状態でエンジンブレーキは働きます。早めにギアをニュートラルに入れてしまうと、フットブレーキだけに頼ることになります。ブレーキの摩耗を早めるだけでなく、エンジンブレーキがない分、ブレーキペダルを強く踏むことになるので、危険性が高まります。

4速や5速で走っていても、減速しながら停まる直前まで、ノッキングが起こる寸前までギアはそのままにしておきます。エンジンブレーキを活かすようにして、ギアをニュートラルにするのは、止まる寸前にします。

急ブレーキを掛ける場合でも、エンストする直前でクラッチを切ってニュートラルにすればエンストしません。クラッチを切った状態で急ブレーキを掛けると、エンジンブレーキが効かずに制動距離が長くなり危険です。