信号待ちや渋滞の最後尾で停車している時に、前方不注意の車に後ろから追突される危険性は誰にでもあります。

私の親戚にも、軽自動車に乗っている時に、後ろから来た車にノーブレーキで追突された夫婦がいます。

相手は、小学生の子供を野球の試合に遅れないように、急いで送り届ける途中の主婦で、携帯電話をかけていたための前方不注意でした。

夫婦とも半年以上、むち打ちのために首や肩の不調を訴えていましたが、それ以上に、相手方の保険会社との示談交渉の大変さを嘆いていました。

  • 早めに示談を成立させようとする保険会社。
  • なかなか思うように改善しない症状。
  • 保険会社に任せきりで一度も謝罪のない加害者。

元通りの体調にいつ戻るのか不安を抱えたまま、病院に通う煩わしさの上に、早く示談交渉をまとめてしまおうとする、相手側の保険会社との対応にも苦労していました。

保険会社との示談交渉の中で、「慰謝料」という言葉を不用意に使うべきでないということを、私もしりませんでした。

むち打ちなどの交通事故で、被害を受けた側の脳裏に浮かぶ、「こちらは被害者なのだから、慰謝料を払ってもらう」という一般的な常識だけで対応してはいけないということを知りました。

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<出典画像:『むち打ち症とは?』http://hirose-jikochiryou.com/wp/wp-content/uploads/unten.jpg>

保険会社との示談交渉で「慰謝料」という言葉を使うべきでない

突然追突され不幸にも、むち打ち(正式には頚椎捻挫、頚椎座礁、外傷性頚部症候群と呼ばれています)になってしまった時、ケガの程度によっては、入院したり通院によって治療を始めます。

その後待っているのは、加害者側の保険会社との示談交渉です。保険会社は、治療の状況や体調の様子を伺いながら、穏便に、そして出来るだけ早急に示談交渉がまとまるように働きかけてきます。

なるべく保険金の支払いが少なく済むように交渉をリードするのが、保険会社の担当者の使命です。

こちらに予備知識がなければ、保険会社の進めるペースで示談が成立していきがちです。相手が保険のプロであるなら、こちらもそれなりの知識武装をしておく必要があります。

先ず知っておかなければならないことは、交通事故の被害者が加害者側に請求できるのは、いわゆる慰謝料だけではないことです。

そのため、保険会社との示談交渉の過程で、こちらから「慰謝料」ということばで補償を求めるのは、自ら補償の範囲を狭めてしまうことになりかねません。

むち打ちになった被害者が請求できるのは慰謝料だけではない

むち打ちになってしまった場合、被害者が加害者側に請求できるのは、いわゆる慰謝料だけではないのです。

慰謝料というのは、迷惑をかけた相手の精神的苦痛に対して、お詫びの気持ちをお金に代えて支払う費用です。

予備知識がないと、この慰謝料の中に全ての費用が入っているように思ってしまいます。

むち打ちの被害者が請求できるお金は、以下のものがあります。慰謝料はその一部でしかないことが分かります。

請求できる名目説明
治療費治療するために掛かったお金
通院費治療のために通院に掛かったお金
入院雑費入院のために掛かったお金
文書料診断書を書いてもらうために掛かったお金
休業損害仕事や家事を休まざるをえなくなったために生じた損害のお金
入通院慰謝料入院や通院のために受けた精神的苦痛への慰謝料
後遺障害慰謝料後遺障害と認定を受けた場合の精神的苦痛への慰謝料
後遺障害逸失利益後遺障害のために失った収入に相当する損害金

被害者がもらえるお金=慰謝料という思い込みがあると、保険会社との交渉でも、慰謝料だけを請求することで了解してしまう可能性が出てきます。

相手の保険会社の方から、事細かな請求可能な名目の説明があることは少ないと思われるので、被害者側は自主的に知る努力をする必要があります。

国民年金などと同様に、請求したものに初めて対応するという姿勢が、公的、私的を問わず、保険を支払う側の性質としてあるように思われます。

よくあるケースでは、3カ月を目安に保険会社から、「入通院慰謝料」として全ての支払いを一括して決着させようとする働きかけです。知らなければ、慰謝料以外の名目として別途請求できるものを受け取らないまま、示談に応じてしまうこともあり得ます。

むち打ちの治療に関わる一切を記録しておくこと

相手側の保険会社との示談交渉に臨む心構えとして、

  • 正当に請求できる名目は遠慮せずに主張する。
  • 請求するに足る根拠は用意しておく。

の2点があげられます。請求するからには、それを相手側に納得させられる根拠を示さなければなりません。

治療のために使った金額や日付、場所、目的などを記録するだけでなく、治療の経過として、医師の意見や自覚症状なども漏らさず記録しておくことです。

例えば、1冊のノートを用意してむち打ちの治療に関することを全て記録します。そこに治療費だけでなく、交通費などの全ての領収書を張り付け、治療日記と経費が分かるようにしておきます。

このような具体的な治療の根拠が医師の診断書やレントゲン画像などの資料とともに、相手の保険会社との示談交渉で説得力のある交渉材料になります。

「これだけのお金が掛かって、これだけの症状があって、これだけの精神的苦痛があるんですよ」という証拠を、自分の手で用意しておくべきなのです。

自覚症状などは、記録しておかないと、保険会社の担当者と話す度に内容が変わっていたりして、一貫性がないと相手に判断され、信頼性を失う原因にもなりかねません。

交渉相手の保険会社の担当者は、百戦錬磨のプロなのです。