住宅が隣接している商業施設などの駐車場では「前向き駐車」と掲示されているところを良く見かけます。

しかし、全ての利用者がその要望を順守しているのは稀です。100%前向きに駐車している場面を見る事は少ない印象を持っています。その理由としては、

  • 「前向き駐車」の意味を誤解している。
  • 隣接住民の迷惑している立場を思いやる想像力がない。
  • 今回だけしか利用しないから許される。
  • 罰則はないから守らなくても問題ない。
  • 他の人も守ってないから自分も大丈夫。
  • バック駐車が習慣になってしまっている。
  • 「前向き駐車」の掲示を見落としたから。

表面的な理由は色々考えられますが、それらの根底にあるのは、「前向き駐車は出にくい」という思いがあるのではないでしょうか?

  • バック駐車は入る時は面倒だけど出る時が楽。
  • 前向き駐車は入る時は楽だけど出る時が面倒。

楽な事を後にするか先にするかの違いのように思えますが、本当にそれだけなのか検証してみます。

前向き駐車

前向き駐車は本当に出にくいのか?

トヨタのアクアをモデルに、前向き駐車はバック駐車に比べて、本当に出にくいのか見てみたいと思います。

アクアの車体寸法など(諸元)は以下の通りです。5人乗りとしては、小回りの良い車のようです。

項目寸法等
全長4,050mm
全幅1,695mm
全高1,455mm
ホイールベース(前輪と後輪の車軸中心間の距離)2,550mm
トレッド(内側と外側のタイヤの中心間の距離)1,470mm/1,460mm(前/後)
最小回転半径(最小に回転した時の前輪外側タイヤの描く円の半径)4.8m

トヨタアクア寸法図

<出典画像:『トヨタアクア寸法図』http://toyota.jp/pages/contents/aqua/001_p_011/image/grade/common/carlineup_aqua_grade_common_size_l.jpg

どんなに運転が上手い人でも、最小回転半径より小さく回り込むことは出来ません。アクアの最小回転半径は4.8mなので、この円より内側を、前輪外側のタイヤは回ることは不可能です。最小回転半径の円の中心は、後輪の車軸の延長線上にあります。

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アクアが駐車場の通路を入って来て、前向きに駐車する場合を考えてみます。通路に入って来た状態の角度を0度とすると、90度回転して頭から駐車スペースに入って行きます。

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駐車スペースの大きさを間口2.5m、奥行5mで想定しています。

助手席側と障害物の間隔を40㎝とって、切り返しせず1回で前向きに駐車しようとすると、通路幅は約7.4m(7.353m)必要です。同時に、出る時も切り返しせずに1回で出るためには、同じ通路幅が必要と言うことになります。

助手席側と障害物との間隔の40㎝は、入る時は危険と感じませんが、出る時の後方外側(図の場合は左後方の角)と障害物の間隔を40㎝にまで接近させるのは難しく感じます。

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また駐車スペースから出る時の前方外側の角(図の場合は左前方の角)と隣に駐車している車との接触の危険性です。外側のタイヤよりも車体(バンパー)は外側を回転します(フロントオーバーハングのため)

  • 前方外側の角の接触の危険性。
  • 後方外側の角の接触の危険性。

この2つの危険性に加えて、前向き駐車から出る時には、後方を通過する車や歩行者と接触する危険性があります。確かに、前向き駐車は入る時よりも、出る時の方が難しいことが分かります。

前向き駐車は入りにくい

それでは、前向き駐車はバック駐車よりも入りやすいかどうかを考えてみます。比較するために、1回の直角に入るバック駐車(直角バック、直角駐車)の様子を見てみます。

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同じ様に助手席側と障害物の間隔を40㎝とって、直角バックを1回で入るには約4.4m(4.393m)必要です。前向き駐車より7.4m-4.4m=3mも少ない通路幅で駐車することが可能です。

それだけでなく、助手席側の障害物との40㎝の間隔は、入る時も出る時も前方外側の角になるので、前向き駐車の場合の外側後方の角よりも確認しやすことも分かります。

  • 通路のスペースが狭くて済む。
  • 外側障害物との間隔を確認しやすい。

前向き駐車に比べて、この2点がメリットになります。ただし、入る時の後方の左右の角が、両隣の駐車中の車と接触する危険性はあります。

入る場合だけを考えてみると、必要な通路幅の差が3mもあるというのは、前向き駐車はバック駐車に比べて、とても入りにくいことを表わしています。

もし、通路幅が4.4mしかなかった場合、前向き駐車では3m分の不足を切り返しで補う必要が出てきます。前向き駐車は出にくいだけでなく、入りにくいとも言えるのです。前向き駐車で、入りやすく出やすいと言えるのは、十分な通路スペースのある数少ない駐車場(例えば大きな敷地のコンビニの駐車場など)だけです。

バック駐車は入るのも出るのも安全

バック駐車の唯一の危険性は、駐車スペースに入る時の後方左右の角の接触です。ここだけクリアすれば、バック駐車は前向き駐車より安全だと言えます。

車が動いている時に、最も危険なのは車の後方に障害物(人や物)がある場合です。バック駐車の場合には、駐車スペースの入り口までの間に、障害物が入り込む可能性はゼロではありませんが、駐車スペースの中とそれに続く軌道上の狭い範囲に限定されます。

前向き駐車の場合、駐車スペースから出る時に、車の後方に障害物が存在する可能性は高くなります。真後ろだけでなく、後方左右から障害物が表れる可能性があります。

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バック駐車は、入る時には限定された後方の危険性はあるものの、出る時には前方を直接確認できる安全性があるので、前向き駐車に比べて、入る時も出る時も安全と言えます。このメリットの上に、必要な通路スペースが狭くて済むという利点が加わります。

これらのバック駐車の前向き駐車に対する優越性を、経験的に感じているので、前向き駐車に対する潜在的な抵抗感があるのです。